お疲れ様です! いきくんです。
昨日のニコ生で田中秀和さんの「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」の分析をリクエストされたので、やってみます。
(注意)
今回の記事は、昨夜、生放送中にパッと聞いてとっただけの大雑把なコードをもとに書いています。
テンションの表記など微妙なところがあるかも知れないので、「ここはこっちじゃない?」ってところがあったら是非教えてください。
はじめに
今回解説する「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」は田中秀和さんの曲の中でも特にカオスなコード進行で有名な曲のようです。
さて、「お前そんなことばっか言ってんな」と思われそうですが、あえて言います。
なんだかんだ言って、この曲は「ただのカオス」ではなく、カオスを演出している「理に適った」曲です。
ちゃんとした古典的な出典も探したらあるのかも知れませんが、それについてはもう少し時間をください。
今回はジャズミュージシャンの常識を例に、この曲を理論的に説明していきましょう。
イントロ
FaugとE♭augの繰り返し。
ここはあまり深く考えず、ホールトーンなノリのイントロだと思って問題ないはずです。
①効果音的なサウンド
②この曲はホールトーンを中心に書きますよというコンセプトの提示
③定番のリズムパターンによる煽り
以上3つの合わせ技です。
イントロのつづきとAメロ
イントロとAメロでは乗ってるテンションが若干違うところもあった気がしますが、今回は大きな流れでお話しします。
★イントロ及びAメロのコード進行
Gm7→GmMaj7→C→Caug→F(Fmaj7)→F7→D7♭9→Daug
さて、一見すると「なんじゃこりゃ!」となりそうなコード進行ですが、
この部分の原型は、非常に単純なII-V-I-VIですね。
ジャズミュージシャンであれば死ぬまでに何千万回と演奏することになる基本中の基本のコード進行です。
II-V-III-VIの逆順進行や、IV-V-III-VIの王道進行も同じ種類の進行ですね。
それを、ほんの少しリハモして「マイナーメジャー」や「オーギュメント」を使ったクリシェのラインを作っているだけです。
このリハモによって、ただのツーファイブから
「ファ→ファ#→ソ→ソ#→ラ→ラ#」のようなボイスリードが出来るように進化しています。
(ちなみに今回はメロディに合わせてD7♭9を鳴らしましたが、原曲の伴奏のボイスリードはF7→Dの時点でミ♭→レになっています。)
その他のポイント
①F→F7(=セカンダリードミナントのV7/IV)に変形させ、「B♭」に行くと見せかけてから、「D7」に進んでいます。
例えば王道進行なんかでも、「IV→V7→III7→VI」と、ドミナントの進行先が「短3度下のドミナントセブンス」に変えてあることがよくあります。
もちろんトニックの「IIIm」をセカンダリードミナント化したものという文脈のコードでもあるのですが、
同時に「ルートがディミニッシュ上(短3度の関係上)にあるドミナントセブンス」の親和性も示しています。
(例)D7、B7、A♭7、F7はいずれも同じディミニッシュスケール上に作ることが出来るコードです。
②最後のDaugではホールトーンスケールを飾りに持ってくることで「ナチュラル9」を鳴らしてとぼけた感じに意表をついています。
本来、V7/IIはマイナーに進むドミナントとしては例外的にナチュラル9でもサウンドしますが、その前のD7でメロディに♭9を含んでいたりすると、一度♭したテンションをナチュラルに戻した時にちょっと間抜けな感じがします。
★D7♭9→D9#5(ちょっと間抜け)→Gm7
恐らくこの飾りを「♭13」から始めているのも、唐突に間抜け感が出ることをを軽減するために狙ってやっていると思われます。
③メロディやコードバッキングのテンションにはお構いなしに、ベースは素直な「1235」やコードトーンに基づいた4ビートのラインを弾き続けています。
これも実は(とりわけ古いスタイルの)ジャズのセッションではありがちな光景です。
ビバップのリハモを「逆に」する
ジャズミュージシャンは「II-V-I-VI」と見ても、素直にその通りのコード進行で演奏することは稀です。
頭の中では勝手に違うコードを想定して、リハーモナイズしたソロのラインを演奏することが多いです。
たとえば、以下のようなリハモは「ビバップ」時代の定番中の定番で、今でもよく使われています。
(実際のコード進行はGm7→C7→Fmaj7→D7)
このリハモによるボイスリードを、「逆に」すると、「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」のコード進行が見えてきますね。
何気に、僕自身アドリブで「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」と同じリハモを、ツーファイブ上で演奏していることがよくあります。
たとえばこんな感じ。
(実際のコード進行はGm7→C7→Fmaj7→D7)
というわけで、とりあえずイントロとAメロまでは、ジャズミュージシャンの常識の範囲内で説明可能なんですね。
おわりに
勘違いしないで頂きたいのは、「こんなのジャズじゃよくあるから大したことないぜ」みたいなことが言いたいわけではありません。
ジャズミュージシャンの視点を用いると、「カオスすぎる!!」と思っていたこの曲にもちゃんと理に適った説明がつけられるよ、というお話しです。
そしてこのようなリハモをしてもポップソングとしての統一性を失わず、むしろコンセプトが明確になっているという点が、この曲の優れたところです。
それでは、今回はこの辺りで。
次回はBメロやサビについて見ていきますね!
(2019/03/31)後編を投稿しました!