いきいき音楽科

アメリカ在住音楽家いきくんの発信基地。ジャズを中心に、音楽理論、作編曲、アニソン、音楽哲学まで幅広く惜しみなく情報をシェアしています。

「禁断のコード進行」と「イキスギコード」は別物ですよ!

お疲れ様です! いきくんです。

今回は「禁断のコード進行」と「イキスギコード」、アニソン界隈の二大流行語についてお話ししたいと思います。

 

はじめに

イキスギコードは、田中秀和さん(天才)の「灼熱スイッチ」に使われていたことで注目を集め、有名配信者のゆゆうたさんがえげつないネーミングをしたことでブームになりました。

禁断のコード進行は、大石昌良さん(神)がよく使うコード進行で、人気番組「関ジャム」でご本人がそう呼んで解説したことでブームになりました。

 

はじめに言っておくと、「イキスギコード」も「禁断のコード進行」も、最近作られた造語ですが、これらのコードそのものがつい最近発明されたわけではありません。

どちらも、もとからあるコード、もとから使われていたコード進行です。

 

巷で「イキスギコード」という謎のコードの存在が騒がれているという土壌が出来ていたところに、大石さんが「禁断のコード進行」という言葉を絶妙なタイミングでバズらせたため、両者が「同じもの」だと思っている人も少なくないようです。

 

一方、「イキスギコードと禁断のコード進行って何? 違うの? 同じなの?」と混乱している人も未だ多数いるようなので、今回はその辺りのことを明らかにしておこうと思います。

 

「コード」と「コード進行」

本題に入る前に・・・

 

コード…いくつかの音を「縦に」重ねたもの。

コード進行…いくつかのコードを「横に」並べたもの。

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たとえば「イキスギコード」と言った時、人によって「コードそのもの」を指していることもあれば、「コード進行込み」で言っている場合もあります。

 

「コードとしてのイキスギコード」と「実際の曲でのイキスギコードの使われ方」は切り離して考えることをオススメします。

 

また「禁断のコード進行」は、「そういうコード」があるわけではなく、一般的なコードを「どうのように進行させるか」ということを指しています。

 

この違いを理解しておきましょう。

 

イキスギコードとは

イキスギコードの理論的な解説は、以下の記事で詳しく書きました。

www.iki2music.work

動画でも解説しました。

www.youtube.com

 

ここではあえて一言でいいますが、「ドミナントセブンスをちょっと変形させたヤツ」がイキスギコードです。

コード進行上では、「G7→C」のようなごく普通の「解決の動き」の代わりに使われます。

 

★普通の解決

G7→C

 

★イキスギコードで置き換えた一例

Gaug/D♭→C

 

禁断のコード進行とは

禁断のコード進行は、

「マイナーセブンスコード」→「全音下のマイナーセブンスコード」に進むとき、

両者を半音でつなぐマイナーセブンスコード」を間に入れて滑らかにしたコード進行のことです。

 

(例)

★Dm7→Cm7→F7→B♭maj7

 

★Dm7→D♭m7→Cm7→F7→B♭maj7

 

さて、よく勘違いされているのですが、このコード進行は普通によくあるものです。

あくまで「大石さんがよく使う」ものであり、「大石さんが独自に開発した新しいコード進行」ではありません。

 

(念のため。僕は大石さんの大ファンです。批判的な意図はこれっぽっちもなく、事実をお話ししています。)

 

下降するマイナーセブンスをパッシング(経過)的に半音でつなぐというのは、ジャズでは定番のコード進行です。

こういうコード進行の曲がある(例:「Falling Grace」など)だけでなく、マイナーセブンスが全音で下降するときは、ピアニストやベーシストが勝手にこの半音のマイナーセブンスを挟んで演奏することが非常によくあります。

 

特に、「VIm7→Vm7(→I7)」や、「IIIm7→IIm7(→V7)」のような進行のとき、それぞれ間の「♭VIm7」や「♭IIIm7」を挟むのは定番の小技です。

 

また、マイナーセブンスに限らず、このような「同じ種類のコードの半音平行移動」は、ジャズ系の音楽では極めて一般的に使われますし、クラシックではドビュッシーの頃から普通に使われています。

 

禁断のコード進行とクリシェの違い

これもよく勘違いされていますが、「関ジャム」で大石さんが「マイナークリシェ」と絡めて「禁断のコード進行」を紹介したため、

「禁断のコード進行はクリシェがもとになっている」と思っている人も多いようです。

 

あれはあくまでテレビ向けのサービストークです。番組の流れ上そういう話の展開になったということと、おしゃべり上手の大石さんが、予備知識のない視聴者にも伝わりやすい説明の仕方をしてくれた結果です。

 

もちろん、ご本人がクリシェを出発点にしてこのコード進行を思いついた可能性はありますが、このコード進行自体はもとからあるものであり、クリシェとはあまり関係ありません

 

大石昌良さんや田中秀和さんはのすごさとは

さて、ここまで読んで、大石さんの熱心なファンの方々は気を悪くされているかも知れません。

 

ただ、ちょっとだけ待ってください。

何を隠そう僕も大石さんを神と崇める大ファンの一人です。

 

大石さんや田中さんは「これまで無かった革新的なコードを発明した」わけではありません。

そもそも、この二人のすごさはそんな単純なものではないのです。

ファンとして、このお二人が「なぜ偉大なのか」をより正確にお伝えしたい!

 

お二人とも、作品のタイプは異なりますが、共通している点があります。

それは、ポップスやアニソンの領域に、ポップスやアニソンの定番ではなく、ジャズやフュージョンといった(語弊を恐れずにいうと)ちょっと頭いい系のコード進行を使っている別の音楽の定番を引っ張ってきているところです。

 

これを普通の人がやれば、ただ「ちょっと複雑」「たしかに新しいけどポップじゃない」曲になってしまいます。

下手にクロスオーバーみたいなことを試みても、「それ、やる必要あった?」みたいな、音楽性の押し売りみたいな結果になりかねません。

 

ただ、この二人は、他ジャンルの定番コード進行をポップの世界に持ってきて、圧倒的なバランス感覚とメロディセンスで、自身のポップな曲の中の必要不可欠な要素として成立させているのです。

これこそが、この二人がポップな音楽の作曲家として天才的である理由です。

 

おわりに 

いかがでしたでしょうか?

もちろん、音楽用語の正しい意味なんて、リスナーが分かっている必要はありません。

 

「イキスギコード」や「禁断のコード進行」の流行も、多少言葉が独り歩きしていようと、そういう盛り上がり自体は良いことだと思います。シンプルに「なんとなくすごい」と聞いて楽しんでもらえることが、音楽家として何より嬉しいことだと思います。

 

ただ、こういう盛り上がりをきっかけに「音楽のしくみ」に興味を持ってくれる人がいるのもまた事実。そういう人たちに、少しでも「正確な情報」が届けばいいなと思って今回の記事を書きました。

 

動画化しました!

youtu.be

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。