お疲れ様です! いきくんです。
突然ですが、こんなサウンド聞き覚えありませんか?
★Cm→A♭m
「Cm」から「A♭m」、3度離れているのに同じコードタイプ!
そんなバカな!
はじめに
日本であまり浸透していない音楽用語で「クロマティックミディアント」(Chromatic Mediant)(クロマチックメディアントとも)というものがあります。
かぶれているわけではなく、僕がアメリカの音楽大学で理論を学んだからという理由なのですが、英語で理解している音楽用語の、日本語(芸大和声?)での対訳を知らないことが結構あるんですね。
で、このクロマティックミディアント。
英語圏ではWikipediaにも載っている周知の言葉なんですが、先日YouTubeに解説動画を出すにあたり、「日本でなんて呼ばれてるんだろう?」と小一時間ググってたんですが、どうも日本ではこの言葉使われていないみたいなんですよ。
というわけで、たぶん日本語の解説動画第一号です。みんなもっと再生して!笑
(海外の方ですが、僕より前にドクターキャピタルさんというノーステキサス大学の音楽教授の方がチャットモンチーの日本語での分析動画でこの言葉を使っておられました。)
実際には、日本の多くの素晴らしい作品にもクロマティックミディアントと呼ばれるコード進行は登場します。
他の理論の一部として解釈することも出来るので、あえて対訳を用意していない理由があるんですかね?
詳しい人いたら是非教えて下さい!
ミディアントとは
前置きが長くなりましたが、本題です。
スケールの第一音はトニック、第四音はサブドミナント、第五音はドミナント、ということは多くの方がご存知だと思いますが、
第三音、第六音を何というか、意外と知らない方もいるのではないでしょうか?
第三音…ミディアント
第六音…サブミディアント
と呼びます。
ダイアトニックミディアント
さて、Cメジャーキーにおいて、ミディアント、サブミディアント上に出来るコードについて考えてみましょう。
要するにダイアトニックコードのIIImとVImですから、
ミディアント→「Em」
サブミディアント→「Am」
ですね。そしてポピュラー音楽の理論においては、これらはいずれもトニックに分類されるコードです。
主和音である「C△」との間に共通音を2つ持っていますね。
C△「ドミソ」
Em「ミソシ」
Am「ラドミ」
★C△→Em
★C△→Am
第3音のオルタレーション
さて、それではこれらのコードの第3音を半音上げて、メジャーコードに変えてしまいましょう(ドン!)
★C△→E△
★C△→A△
このようなサウンド、映画音楽でよく聞く気がしませんか?
Cのキーにおけるミディアント、サブミディアントの音をルートに持ち、さらにC△との間に共通音を1つ持っているこれらのコードを、「クロマティックミディアント」(クロマティックサブミディアント)と呼びます。
同主調のミディアント
続いて、Cメジャーの同主短調である、Cマイナーキーの♭III△、♭VI△を見てみましょう。
★C△→E♭△
★C△→A♭△
これらのコードも、C△との間に共通音を1つ持っており、「クロマティックミディアント」と呼ばれることがあります。
クラシック音楽においてクロマティックミディアントと分析される進行はこのパターンが多いです。
ダブルクロマティックミディアント
先ほどの♭III△、♭VI△の第3音を半音下げて、マイナーコードにしてしまいましょう!(ドン!)
★C△→E♭m
★C△→A♭m
これらは主和音との間に共通音がひとつもなく、「ダブルクロマティックミディアント」と呼ばれています。
ざっくりまとめ
Key of C major
・ダイアトニックミディアント:Em、Am(C△と共通音2、別のコードタイプ)
・クロマティックミディアント:E△、A△、E♭△、A♭△(C△との共通音1、同じコードタイプ)
・ダブルクロマティックミディアント:E♭m、A♭m(C△との共通音0、別のコードタイプ)
これは、マイナーキーで考えても同じです。
Key of C minor
・ダイアトニックミディアント:E♭△、A♭△(Cmと共通音2、別のコードタイプ)
・クロマティックミディアント:E♭m、A♭m、Em、Am(Cmとの共通音1、同じコードタイプ)
・ダブルクロマティックミディアント:E△、A△(Cmとの共通音0、別のコードタイプ)
こちらの動画ではマイナーキーの方も含めて、音を出して解説しています。
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クロマティックミディアントの定義
理論家によって少しずつ言う事が違っていて、クロマティックミディアントの定義ははっきりとはしていません。
クロマティックミディアントの「♭III△」や「♭VI△」はモーダルインターチェンジコードとして登場するし、
「III△」や「VI△」はセカンダリードミナントのトライアド版として登場するコードですが、
これらの文脈をあまり強く持たないとき、「あ、クロマティックミディアントだな」と感じます。
本来は、ダイアトニックなミディアント(サブミディアント)のオルタレーションであり、主和音I(Im)のトニック機能が拡張されている状態であるとされています。
が、実際には先ほどの「ざっくりまとめ」のように、あるコードと、上下に長・短3度のノンダイアトニックなコードを組み合わせた進行を、たとえ出発点がドミナントやサブドミナントであっても「Chromatic Mediant Relationship」と表現することもありますし、
既存の機能和声の枠組みを超えてインターバリックなコード進行を組み立てるときにも使われる手法です(クロノトリガーとか)。
逆に、「クロマティックミディアント」を第四の(T、D、SDに次ぐ)機能として考えようという内容の論文もあります。
当たり前の話ですが作曲家は全て定義に従って作曲しているわけではなく、定義を利用して創作活動をしている訳です。ナポリの和音なんかもそうであるように、様々な例外はあって然るべきです。
いずれにしても、クラシック音楽にも登場し(パッと思いついたのはブラームス、チャイコフスキー、ドビュッシー)、ドラマチックなサウンドで、とりわけ映画音楽において非常に多用されているコード進行です。
まとめ
突き詰めるとネオリーマン理論なんかとも繋がっていくので、面白いなと個人的には思っています。
日本ではこの言葉自体はあまり使われていませんが、決して日本が遅れているわけではなく、日本のゲーム音楽なんかはこちらでもよく研究されていますし、その中にもクロマティックミディアントの進行が登場しています。
もしかしたらこの言葉をあえて使っていない理由があるのかも知れませんが、こうやって体系立てて覚えておくと、作曲や分析で必ず活きてくると思うので、何かしらに役立てて頂ければ幸いです。
今回はクロマティックミディアントとは何か、という説明に終始しましたが、次回は実際の使用例を、動画&ブログで紹介してみようと思います!