いきいき音楽科

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ラインクリシェは、変化前の音と共存できるのかという話

お疲れ様です! いきくんです。

生放送中に視聴者さんからの質問で面白いコード進行を教えてもらったので、軽く記事にしてみます。

  

♭VIaugMaj7って!?

その面白いコード進行とは、

 

・Key=Dメジャー

D→D/C→Bm7→D/B♭→D

(実際の曲とは拍子を変えています) 

 

というものでした。

この、「D/B♭とはなんぞや!」という話だったのですが、まずシンプルにコードだけ見ると、

 

シ♭、レ、ファ#、ラ = 「B♭maj7#5(またはB♭augMaj7)」

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を別の書き方にしたもの、と言うことが出来ますね。

ディグリーで言うと「♭VImaj7#5」(♭VIaugMaj7)ということになります。

 

さて、こいつは一体何者なのでしょうか……。

 

代表的なクリシェの4パターン

一般的にクリシェ(ラインクリシェ)とは、同じコードがずっと続くとき、コードトーンのうち1音を変化させる手法のことを指しています。

 

C→C+→C6→C7

 

みたいなやつですね。

この場合、コードトーンの5度を半音ずつ上昇させて、「ソ→ソ#→ラ→シ♭」というラインを作っています。

 

ラインクリシェでは、基本的にもとのコードの「ルート」か「5度」を変化させることが多いです。

 

★C→C+→C6→C7

5度を半音ずつ上昇させています(ソ→ソ#→ラ→シ♭)。

 

★C→Cmaj7→C7→C6

ルートを半音ずつ下降させていますね(ド→シ→シ♭→ラ)。

 

 

マイナーのクリシェもよくあります。

 

★Am→Am#5→Am6→Am7(Am#5に戻る方が有名)

5度のクリシェ(ミ→ファ→ファ#→ソ)。

 

★Am→AmMaj7→Am7→Am6

ルートのクリシェ(ラ→ソ#→ソ→ファ#)。

 

変化前の音は共存できる?

ところで、ルートのクリシェは、ベースが「A」を弾いている限り、「ラ→ソ#→ソ→ファ#」というクリシェのラインと、もとのルート音は共存可能です(ユニゾン→長7度→短7度→長6度)。

 

一方、クリシェのラインをそのままベースに持ってくることもあります。

そのまま言うと、「Am→Am/G#→Am/G→Am/F#」ってことですね。

 

両者は一見同じものに見えます。

ジャズのジャムセッションなんかでも、「Am→AmMaj7→Am7→Am6」というコード進行があると、ここぞとばかりに半音下降するベースラインを弾いてしまうベーシストがよくいます。

 

実はこれ、厳密には違うものです。

 

なぜなら、ベースがクリシェのラインを弾いた場合、「Am/G#」では、「ベースのG#」と「ルートのA」は「短9度(短2度)」の関係になってクラッシュしてしまうからです。

 

そのため、「Am→Am/G#→Am/G→Am/F#」というコード進行は現実的ではありません。

実際には「Am→G#aug→Am/G(あるいはC/G)→Am/F#(=F#m7♭5)」とすることがほとんどです。

 

次に、同じことを5度のラインで考えてみましょう。

 

C→Caugと動かした場合、「Caug」において、もとの「ソ」と変化後の「ソ#」は半音でクラッシュするため、通常は共存できません。

 

ですが、たとえばC/G→C/G#と転回して考えてみるとどうでしょう。

この場合「C/G#」において「ソ」と「ソ#」は「短2度」ではなく、「長7度」の音程になります。

 

「sus4」で「長3度」の音をテンション10thとして使えるのと同じ理屈ですね。

 

冒頭のコード進行の結論

冒頭のコード進行は、基本的には「D」をもとにしたクリシェ的なラインですが、

 

D→D/C(D7の転回形)→Bm7(D6の転回形)→D/B♭=B♭Maj7#5(D+の転回形がもとで、変化前の5度とも共存している)となっているわけです。

 

となると、「D/B♭」という書き方は、ズバリこのコードの意味を表していますね。

 

また、D/C→Bm7はクリシェ的なパターンにも聞こえるものの、実際にはドミナントとしてのD7からの偽終止の力も兼ね備えています。

 

さらに、♭VI系のコードはSDM的なにおいも残しつつ、トニックとスムーズに連結する(この場合変位した5度を含むので僕にはデュアルファンクションに聞こえます。)ことが出来るため、このクリシェ的なコード進行はひたすらループ可能です。

 

余談ですが! 

以上のことから、「I/#5」は「Iaug」の関係のコードということになりますが、

例えば「Iaug」は、「III7」を代理にすることがよくあるコードです。

するとこのコードは、「III7#5#9omit7」の第一転回形でもあるのです!

つまり、クリシェを用いて説明せずとも、オーギュメントコードのそもそもの性質ということも出来るわけですね。

 

いやあ、面白いコード進行ですね。

リライトしたらTwitter等で告知しますね! ひとまず、備忘録として。